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6 じょうまん淵<ぶち>

お話を聞く

 

 外田ヶ谷<そとたがや>の落合橋<おちあいばし>を渡り、赤城<あかぎ>(鴻巣市)へ向かう途中に〝じょうまん淵〟という所があります。まだ星川がきれいに工事される前で、川もあっちこっちへと曲がりくねっていた頃<ころ>の話です…。

 

 西からまっすぐに流れて来た川が、急に北へ大きく曲がっている所がありました。そのため、水の勢いが激<はげ>しくなり、土がえぐれて深い淵になっていました。冬でも水がなくなることがなく、青くよどんで気味<きみ>が悪いほどでした。土地の人は「なんだか主<ぬし>でも住んでいるみたいだ」と言って、そこを通ったものです。

 

 夏もちょうど終わりの頃<ころ>、どこの家でも蚊帳<かや>をしまう時期でした。近くに住む「おじょう」と「おまん」の姉妹が、蚊帳を洗いにやってきました。あいにく川の水が少ないため、二人はこの淵で洗うことにしました。

 

 「お姉ちゃん、蚊帳をはずして洗わなくていいの」
 「めんどうだから、このまま洗おうよ」

 

 「おじょう」と「おまん」は、蚊帳を洗いはじめました。昔の蚊帳は家で紡<つむ>いだ木綿糸<もめんいと>で織<お>っていたので、生地<きじ>も厚<あつ>く、重いものでした。そのため「蚊帳を洗うときは何か所か縫<ぬ>い目を解<と>いて洗うもの」といわれていたのです。

 そうしたところ、運の悪いことにどちらからともなく足を滑<すべ>らせてしまいました。

 「あ、助けてぇ、助けてぇ、だれか助けてぇ、」

 必死でもがこうにも、蚊帳が手足に絡<から>んで動きがとれません。どんどんと深みに入り、いつの間にか水の中へと消えてしまいました。

 

 しばらくして、帰りの遅いのを心配した家の者が、娘を捜<さが>しにやってきました。淵には変わり果てた姿の2人が浮<う>かんでいました。

 

 それからというもの、この淵を「おじょう」と「おまん」の名にちなんで〝じょうまん淵〟と呼<よ>ぶようになりました。そして「蚊帳を洗うときは何か所か縫い目を解いて洗うもの」という教えも、前にも増して厳<きび>しく言われるようになったということです。