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45 明神様<みょうじんさま>のご神湯<ごしんとう>

お話を聞く

 

 むかしむかし、まだ玉敷神社<たましきじんじゃ>が明神様<みょうじんさま>といわれていた頃、〝アサダ〟という大きな木がありました。根本にはウロ(穴)ができていて、幹を伝わって落ちてきた水がこの穴にたまりました。この水は〝薬水<くすりみず>〟とよばれ、近くはもちろんのこと、遠くからも竹筒を持ってもらいに来るほどで、「お助け水」ともよばれました。

 

 そこで近くに井戸を掘<ほ>り、薬水を入れて風呂<ふろ>を沸<わ>かすようになりました。この風呂は霊験<れいけん>あらたかで、特に皮膚病<ひふびょう>に効果があるといわれ、〝明神様のご神湯〟として広く知られるようになりました。

 

 ある日のことです。母親の葬式<そうしき>が終ったばかりの市右ェ門<いちえもん>が、知り合いの弥作<やさく>とバッタリ、神社の入口で行き合いました。

 「市右ェ門さん、あんた、明神様に何か用かね」
 「おお、これは弥作どん。俺らぁ、葬式で疲れたから、お湯に入るべと思ってね」
 「そりゃまずかんべぇ、市右ェ門さん。ブクがかかってる(お葬式が終ったばかり)のに、明神様のお湯をいただくなんて、バチでもあたったら大変だぁ」
 「なあに、弥作どん。ブクと言ったって、体が汚<きた>ねぇわけじゃねぇ。お賽銭<さいせん>もあげるんだから、まずいこたぁなかんべ」
 「そうかい、そこまで言うんなら市右ェ門さんの好きにすっとよかんべ」

 そう言って、2人は別れました。

 

  市右ェ門は少し後ろめたい気持ちがしましたが、「かまうもんか」と急ぎ足で参道を進みました。

 その時です。ふと見上げると、2匹の白い大蛇<だいじゃ>が鳥居<とりい>にからみついて、頭を持ち上げています。大きく開いた口からは赤い舌<した>をペロペロ出し、目を怒らせて今にも市右ェ門を襲わんばかりです。

 びっくりした市右ェ門は「ギャー」と声を出したまま、その場に倒れてしまいました。

 

 それからどのくらいたったでしょうか。ようやく気がついた市右ェ門は、やっとの思いで家へ戻りました。

 それからというもの、市右ェ門はむかしからの教えを守らなかったことを、毎日反省していたということです。